1998年、まだフレンチブルドッグが街にほとんどいなかった時代。
スチャダラパーのBoseさんは、数冊の犬種図鑑に何枚も付箋を貼りながら、理想の相棒を探していた。
その子の名前は、コパン。
フランス語で「気さくな友だち」を意味する名を持つ彼女は、12年半という月日をBoseさんとともに駆け抜けた。
テレビ局にもレコーディングスタジオにも連れ添い、「相棒」としてそばでBoseさんを支えつづけたコパン。
一方で、PUFFYや電気グルーヴを巻き込んだ”うんこ事件”を起こしたことも。
スチャダラパーのBoseさんに、コパンとの暮らしやフレンチブルドッグへの変わらぬ愛、そして犬と人間の社会についての本音まで、たっぷりと話しをうかがった。
1998年、フレンチブルドッグとの出会い

――90年代、「フレンチブルドッグ」という犬種はどのように知ったのでしょうか。
Bose:
もともと犬を迎えたいとは思っていて、ちょうど30歳くらい(1998年)のタイミングかなぁ。もう大人だし区切りもいいし、そろそろだなって。
それでどの犬種にしようかと分厚い犬種図鑑を何冊も買ってきて、とにかく見まくった。自分の性格的にとことん調べるのが好きなんだよね。
気づいたらどの本も、フレンチブルドッグのページばっかり付箋を貼ってて。
子供のころ実家でボクサーを飼っていたから、あのふてぶてしい顔が「犬」として刷り込まれていたのかも。
だから昔からブルドッグ系とか、ピットブルみたいなムチッとした顔が好きだったんだよね。
中でも「フレンチブルドッグは都会のマンションでも飼いやすい」って本に書いてあって、そこからフレンチブルドッグ一択になったかな。
――90年代にフレブルのブリーダーさんを探すのは大変でしたよね…?

Bose:
ちょうど知ってるブリーダーさんがいて相談しに行ったの、当時から有名なところで。
そしたら「探します」って言ってくれて。そこはブリーダーというより、飼い主さんと犬をマッチングさせてくれる感じだったのかな。
それで「どんな子がいい?」って聞かれて「ブリンドルで、胸が白くて、女の子で、体型はこんな感じ」って。
もう本で見た写真の好みそのまんま(笑)。
かなりピンポイントなのに「心当たりがあるから連絡してみるよ」って言ってくれて、数週間で「近い子がいるよ」って連絡をもらったんだよね。
求めていたフレンチブルドッグ、名前は「コパン」

――実際フレンチブルドッグと暮らしはじめて、いかがでしたか。
Bose:
生後 5ヶ月か6ヶ月でうちに来たんだけど、それまでブリーダーさんのところで親犬やきょうだいと暮らしてて。
一般的なしつけやトイレトレーニングもやってくれてたから、うちに来たときにはほぼ完璧。
だからその辺は苦労した記憶がないし、むしろトイレトレーニングってどうやるの!? すごくない!? って思うよね(笑)。
今みたいにインターネットもないし、街でもほとんど見かけないから、遭遇した時はフレンチのオーナーさん同士テンションが上がって。
その場で情報交換したり、連絡先を交換してって感じだったなぁ。
――愛犬の名前「コパン」は、どんな由来があるのでしょうか。

Bose:
フランス語で調べたの、フレンチブルドッグだからフランス語で名前をつけたくて。
「コパン」は気さくな友だちとか、そういう意味だったかな。
友だちが欲しかったし、そういう感覚で迎えたくて。子どもというより、相棒とか仲間として一緒にいてほしかった。
でもさ、フレンチのオーナーさんて和名かフランス名に分かれるよね。
和菓子の名前を付けたり、「秀吉」とか漢字が似合う名前とかも多い感じする。
どっちもフレンチっぽいからすごいよ(笑)。
――そこもオーナーさんの個性が出ますよね! コパンが来てから、生活は変わりましたか。
Bose:
もう激変。それまでは夕方に集まって朝までレコーディングして、完全に昼夜逆転だったけど、コパンが来てから朝7時に「起きろ」って起こしに来るから。
みんなもそうだと思うけど「お腹すいた」とか「お散歩は?」って必ず来るじゃん。
だから夜早く寝るし朝もちゃんと起きるし、急に生活リズムが変わったから体調崩しかけたもんね(笑)。
――ちなみに、夜はいっしょに寝る派でしたか!?

Bose:
寝てたねぇ。最初の夜は、ケージで寝かせようとしたの。本にも「寝室は別にした方がいい」って書いてあったし。
それで「おやすみ〜」って別の部屋に行ったら、寂しくてケージを飛び越えてきちゃって。
こっちに来ちゃったからそのまま一緒に寝て、それからずっと。
ケージも使ってなかったし、部屋中自由に過ごせるスタイル。
今でこそ一緒に寝ることを推奨する人も増えてるけど、当時はそういう空気じゃなかったし、でも「まぁいっか」って感じだったかな。
――石野卓球さんも同じエピソードを話されていました(笑)。
Bose:
ほんと?(笑) たしか卓球はトイプードルだよね。でもやっぱそうなるよね。
電気グルーヴ、”うんこ事件”
電気グルーヴといえばさ、昔一緒にレコーディングしてたんだけど。
僕はどこにでもコパンを連れて行ってたから、レコーディングスタジオにも毎回行ってて。
それで瀧(ピエール瀧)がゴロンと横になってると、コパンが顔をベロッベロ舐めて、瀧も「もうずっと舐めさせてやる」みたいな感じでいてくれて(笑)。

Bose:
そんな感じで何日かレコーディングしてて、ある日もそのまま無事に終えて帰宅して。
そしたら翌日、そのスタジオでPUFFYのレコーディングがあったらしくて。隅っこにうんこが落ちてたんだって。
ほんとに端っこだったから僕も気づかなくて。
で、PUFFYのふたりが「うんこ落ちてる! 昨日使ってたの誰? 電気グルーヴ!やりかねない!」って。
人糞騒ぎ(笑)。
でも粗相をしたのはそれ一回きりだったかなぁ。
コパンはレコーディングスタジオもテレビ局も、どこにでも連れて行ってたけど、基本は楽屋でいい子に待っててくれるの。
基本的には手のかからない子だったかも。
たどり着いたのは、手作り食

── 最高ですね…(笑)。そんなコパンちゃんですが、健康面はいかがだったでしょうか。
Bose:
コパンはねぇ、フレンチの中でもとくに鼻腔や喉が狭かったから、すぐガァガァいっちゃう子で。
夏の暑さも本当に怖かったし「喉を広げる手術をした方がいいですよ」って何度も勧められたんだけど、フレンチは麻酔のリスクがあるから…どうしても踏み切れなかったなぁ。
20年前は短頭種の麻酔に慣れてる人もそんなに多くなかったし、怖さが勝っちゃったね。
そのぶん空調とかも含めて暑さにはかなり気をつかってた。
── フレブルはお肌もデリケートですが、コパンちゃんはいかがでしたか。
Bose:
コパンもアトピーがひどくて、いろんなドッグフードを試したけど良くならなくて。何軒か病院をまわったけど、なかなか治らなかったなぁ。
当時は今みたいに良いドッグフードも少なかったし、最終的にたどり着いたのが手作り食。
玄米とかお肉、レバー、野菜をミキサーでペーストにして。寸胴鍋を買ってきて週に一度まとめて作っちゃうの。
量がとにかく多くて、ドッグフードと同じ量だとカロリーが全然足りないから、結局人間ひとり分くらい食べるんだよね。
でも手作りにしてから痒みもだいぶ落ち着いて、うん、手作りは最後まで続けたかな。
── 20年以上前に手作り食をされていたとは…!

Bose:
試行錯誤したけどねぇ、みんなも同じだと思うけどフレンチの食事って大変なんだよね。
あとは緑内障にもなって、これが遺伝だったの。9歳か10歳で片目が見えなくなって、ある朝起きたら突然両目が見えなくなってた。
なんの前触れもなく完全に視力を失ったんだよね。
でも動物ってすごくて、目が見えなくなっても、部屋の間取りを少しずつ覚えてくのよ。
しばらくしたら自分でトイレに行けるようになって、散歩もできるようになった。すげぇなーと思って。
今はバギーが主流だけどさ、当時はなかったから。すごいよね、フレンチのオーナーさんみんな持ってるじゃん。今だったらバギーで散歩とかしてたんだろうね。
介護と旅立ち。ペットロスを救ったのはー

Bose:
それでコパンが11歳になった時に心臓が弱り始めて、肺にも水がたまるようになっちゃって。
でも、ごはんはずっとしっかり食べてくれてたんだよね。
入院していた時も、ごはんを持っていくと必ず食べてくれた。
最後は入院したり寝たきりになったけど、それから1年くらいは頑張ってくれたかな。
それで12歳半で亡くなって…。
どこへ行くにも一緒だったから、いなくなって本当に辛くて。ペットロスっていうか、もうなんだろう、引きこもっちゃう感じ。
毎日泣いたりして。心の隙間が埋まらない、みたいな。
それでコパンが亡くなって少し経った頃に奥さんと出会って、結婚して娘ができて。
だから娘には「コパンの生まれ変わりなんじゃない!?」とか言ったりしてるよ(笑)。
「わたしフレンチブルドッグじゃない」って言われるけど(笑)。
でも家族が心の隙間を埋めてくれた感じかな。
楽曲『ファー・ベイビー』の歌詞に込めた想い

──楽曲『ファー・ベイビー』の歌詞「夢で会えたらまた遊ぼう」がとても印象的でした。
※2025年にスチャダラパーさん・七尾旅人さんが犬(フレブル)を思って作った楽曲
Bose:
コパンと触れ合った時の感覚って、今でも体に残ってるんだよね。夢に出てきてくれた時も、当時と同じようにムニムニして。
それで夢から覚める時に「あ、いる、いる! あれ…? いない」って。
だから『ファー・ベイビー』の歌詞で「夢で会えたらまた遊ぼう」って書いたのは、そのままのことで。あの時と同じように、夢で触れ合って遊んでいる感じ。
ちょうど歌詞を考えてる時も夢に出てきてくれたしね。
実は、自分のことをこれだけ正直に書いた歌詞って珍しくて。
書いてる時は結構しんどかったけど、いなくなってからだいぶ経ってたから書けたっていうのはあるかなぁ。
旅人(七尾旅人)がすごく良いメロディを作ってくれて、ANIも自分の愛犬との思い出をユーモラスに書いてくれて、僕らとしても大事にしたい曲だよね。
── Boseさんとお会いするたびに、心の底から”フレブル愛”を感じます。

Bose:
街でフレンチブルドッグを見かけて、みんなどこかで血が繋がってるかもしれないって思うと、ほんとに嬉しいんだよね。
ブリーダーさんが違っても同じフレンチブルドッグだから、きっとコパンもみんなと繋がってるんだろうなとかさ。
今でもフレンチがいたら絶対話しかけちゃうし、近所のどこにフレンチがいるかだいたい頭に入ってて、独自の”フレンチマップ”ができてるもん(笑)。
これはみんなそうだと思うけど、フレンチとそれ以外の犬種は別なんだよね。もうフレンチはフレンチ。
―― フレブルオーナーの皆さんは、かなり共感されると思います!
Bose:
やっぱりフレンチのオーナーさんて何かわかるよね。顔も似てくるしさ。
このロンTを家で着てると、奥さんに「顔おんなじじゃん」て言われるもん(笑)。

乗ってる車も似てるイメージがあるし、フレンチが手がかかるように、手のかかる車が好きな人も多いよね。
僕も車が好きで、昔フォルクスワーゲンのゴルフ カブリオレに乗ってた時があってさ。
アメリカのラッパーは、ピットブルを連れてでっかいSUVとかに乗ってるイメージあるじゃん。
日本のラッパーは、ゴルフ カブリオレにフレンチブルドッグだろみたいな(笑)。
それくらいがちょうどいいっていうね。
── Boseさんらしい気がします(笑)。将来またフレンチブルドッグを迎えたいという気持ちはありますか?
Bose:
もちろん。家族もみんな犬が好きだし、迎えるならフレンチブルドッグのブリンドルで女の子がいいよね(笑)。
それはコパンの代わりを求めてるとかじゃなくて、やっぱりブリンドルの女の子が好きなんだと思う。
でも今の家がペットNGで、あと最近の酷暑も心配。フレンチにとっては厳しいじゃん、最近の夏は。
それだけが心配だなぁ。
「遅っ! ダサっ!」の精神で、日本をペット先進国に

Bose:
これは昔から言い続けてるんだけどさ、日本はもっと犬と一緒に行けるところを増やしてほしいよね。
欧米は普通に犬が電車に乗ってくるし、ドッグランの数もものすごいもんね。
そういう意味では日本は遅れてるし、明確にダメな理由もなかったりするじゃん。
犬アレルギーもわからなくはないけど。
僕はコパンを連れてって、断られたら「なんでダメなんですか?」って絶対聞いてた(笑)。
噛まないし騒がないし、ちゃんとお風呂も入ってるから清潔ですよって。
犬と暮らしている人が負い目を感じてる社会っておかしいよね。
みんなもっと文句を言っていいと思うんだよね。
断られたら「遅っ! ダサッ!」みたいな(笑)。
俺ら昔から言ってたもん「うちはペットダメなんです」って言われたら「遅っ! ダサッ!」って。
まぁ元々こういうことばっかり言ってるラッパーなんだけど。
Bose(スチャダラパー)

1969年生まれ、岡山県出身。ヒップホップグループ「スチャダラパー」のMC。
1990年のデビュー以降、ユーモアと日常感覚を織り交ぜた独自のスタイルで日本語ラップシーンを牽引。
30歳の頃にフレンチブルドッグ「コパン」を迎え、約12年半をともに過ごした。
—–
「スチャダラパー」オフィシャルサイト
Bose:Instagram(@bose_sdp)
—–
photo:Hiroaki Otake
location:goodmellows